睡眠不足が認知症リスクを上げる?知っておきたいメカニズム

睡眠不足な人は認知症になりやすい?

睡眠が足りている人と比べると、睡眠不足の人は、3割ほどリスクが高くなると言われています。目安となる睡眠時間は6時間以下です。

イギリスで25年に渡って行われた追跡研究の結果ということで、信ぴょう性の高さも伺えます。興味深いのは、認知症予備軍だから睡眠時間になったのではなく、睡眠不足が続いたことで認知症を発症したと考えられる点。言い換えれば、睡眠不足を解消できていれば、認知症にはならなかった可能性があるということです。

認知症と言っても種類がある

私たちが「認知症」と言われてイメージをするのは、アルツハイマー型認知症と呼ばれるものです。ですが、アルツハイマー型認知症は、認知症の種類の1つ。アルツハイマー型以外にも、種類があります。

    • アルツハイマー型:アミロイドβというタンパク質によって脳が萎縮し、記憶障害を伴って現れる認知症。進行は緩やか。
    • レビー小体型認知症:レビー小体というタンパク質によって引き起こされる認知症。幻覚や人物誤認、転びやすいといった症状が出る。良い時と悪い時で差がある。
    • 前頭側頭型認知症:前頭葉と側頭葉が萎縮して起こる認知症。65歳以下で多い。同じ行動を繰り返したり、言葉が出なくなったりする。
    • 血管性認知症:脳出血等の影響で起こる認知症。繰り返すと悪化していくため、治療を行うことが大切。

認知症でもっとも多いのが、アルツハイマー型のため、認知症=アルツハイマー型と思われています。ですが、認知症の原因によって、呼び名はもちろん現れる症状にも違いがあるため、いわゆる「物忘れが酷くなった」「何をしようとしていたか忘れてしまう」といった症状以外にも、注意しておきたいところです。

また、冒頭で紹介した研究で言われている睡眠不足が要因の1つとされる認知症は、主にタンパク質が原因のものですが、睡眠不足が続くことでさまざまな影響があるため、しっかりと寝ることは大切です。

睡眠不足になるとどんな症状が現れる?

認知症リスクを高める睡眠不足。眠たいなと感じる以外にも、症状があります。

集中力が低下する

起きていても、眠気にさいなまれるため集中力が低下します。眠気を感じていなくても、目の前の仕事に集中できないこともあるので、仕事や家事の進みがなんだか遅い、といった時は睡眠不足を疑ってみてもよいかもしれません。
脳はとてもエネルギーを使う器官です。だからこそ、しっかりと休息させないと力を発揮できなくなってしまいます。

イライラ・カリカリする

十分な休息が取れていないことから、精神面にも影響が出ます。なんてことないのにイライラ・カリカリして気が立ちやすくなるのが睡眠不足の特徴です。
睡眠不足が続くことで、イライラも同様に続くため、ストレスフルな状態に陥ってしまいます。

太りやすくなる

睡眠不足の状態になると、体は疲れているのに起きていなくてはいけない状態となり、必要以上のエネルギーを蓄えようとします。食欲を抑えるホルモンの分泌量が下がることもあって、いつもより食べてしまったり、より体が蓄えてしまったりして、太りやすくなるのです。

高血圧やうつといった病気のリスクが上がる

人は寝ている時に体を修復したり、疲労を回復したりします。そのため、睡眠不足になると体のメンテナンス不足が起こり、体調不良やひいては病気になってしまうのです。
例えば、高血圧は自律神経の働きが上手く機能していないからと言われています。うつ病は、睡眠によって脳を休める時間が不足することが続くと、発症してしまうと言われています。

なぜ、睡眠不足だと認知症リスクが上がるのか

認知症の中でも、アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβと呼ばれるタンパク質が溜まることで、脳細胞が傷ついたり破壊されたりして起こるとされます。

アミロイドβは、言ってしまえば脳の活動な中で出てきたゴミのような老廃物です。何かを考えたり、行動したりといった日常の数々の思考・動作に伴って発生します。

睡眠中、脳では神経細胞が記憶の定着などの働きをしています。その際、グリア細胞と呼ばれる細胞が収縮すると、神経細胞間に隙間が生まれ、そこを脳髄液が流れていきます。アミロイドβは、この脳髄液の流れによって取り除かれていることが近年発見され、睡眠不足とアルツハイマー病には関係性があると言われるようになりました。

睡眠不足が続いて、アミロイドβがどんどん蓄積していくと、20~30年後にはアルツハイマー病を発症するリスクが高まると言われ、その倍率はきちんと睡眠を取れている人と比べて、1.51倍という結果が出ています。

睡眠不足を解消する方法

「寝る」スイッチを入れる

布団に入ってもすぐに目を閉じず、読書したり、携帯電話を触ってみたりしていませんか。そういったことが続くと、布団に入る=寝ることとして認識されず、寝るタイミングを失ってしまいます。
やり方は人によりますが、布団やベッドに入ったらひとまず目を閉じてみる・メールチェックだけしたら寝る体制に入る、など自分で寝るためのスイッチを入れるようにしてみましょう。

運動をして体を疲れさせておく

程よい疲労感が得られる運動を行って、眠気を誘うやり方です。ただ、睡眠予定時間の2~3時間前までには運動は済ませておきましょう。運動すると交感神経が優位になって、寝付きにくくなるためです。
睡眠時に行われる疲労回復や細胞の修復といった機能を自ら呼び起こしてみるのはいかがでしょうか。

昼寝を取り入れる

睡眠不足になると、日中に眠くなることがあります。そのまま何もしないと、睡眠負債は溜まっていく一方です。そのため、10~20分ほどの昼寝をしてみましょう。短時間なので、職場でも実践しやすいのではないでしょうか。
カフェインが平気であれば、昼寝前にコーヒーを飲んでおくと、30分ほどでカフェインの覚醒作用が効いてくるので、寝すぎ防止になります。

体を温めてリラックスする

体が冷えると、体温を逃がさないように血管が収縮。また、筋肉も縮んで熱を生み出そうとします。体がぎゅっとなっていると、どうしても緊張状態になりますし、疲れもとれません。加えて寝不足となれば、いっそうです。
そのため、靴下や腹巻逃が、ネックウォーマーなどを使って冷え内容にしたり、湯船に使って体を温めるのがおすすめ。緊張が溶けてリラックス状態になれば、自然と眠気もやってくるでしょう。

深部体温をしっかりと下げる

深部体温とは、言ってしまえば脳や内蔵の温度のこと。温度を下げることで、エネルギー消費を抑え、休息します。深部体温を下げるためには、手足から熱を逃がす必要があります。手足が冷えていると、上手く熱を逃がせずに深部体温が下がりません。寝る時に手足が冷えやすい人は、温める工夫をして、深部体温を下げやすくしましょう。
ただし、寒いからと靴下を何枚も重ねるような履き方は熱がこもって逃げにくくなるので、手先や足先は出してあげるほうが良いと言われています。

寝室や寝具を整える

温度や湿度といった要素も、寝やすさには大切です。寝室の温度は、夏は26度くらい、冬は16度以上が理想的。湿度は、50~60%が目安です。寒すぎる・暑すぎる部屋になっていたら、エアコンや扇風機を活用しましょう。
寝具も体に合っていないと寝付けない・疲れが取れないといったことになります。枕やマットは、適度に寝返りがしやすく、体を支えてくれるものがおすすめです。掛け布団も、季節に合わせて心地よい温度になるよう調整しましょう。

食事やアルコール、タバコに気を配る

人の体が眠くなるためには、メラトニンと呼ばれるホルモンの存在がかかせません。アミノ酸からできているので、タンパク質をとるようにしましょう。
寝酒は、寝付きはよくなることがありますが、お手洗いが近くなったり、翌日二日酔いになったりするため、寝るために飲むのは避けましょう。タバコは、ニコチンに覚醒作用があるので、こちらも寝る前は控えるのをおすすめします。寝タバコは火事の危険もあるので、注意してくださいね。

睡眠の質を上げるコツ

寝付きが良くなったとしても、睡眠そのものの質が高くないと認知症リスクはなかなか下がりません。ここからは、睡眠の質に着目して、日々の中で気をつけたいポイントを紹介します。

生活リズムを整える

仕事の関係で、どうしても不規則にならざるをえない方もいるかもしれませんが、そうでない場合は、日常の生活リズムを整えてみましょう。

その方法としておすすめなのが、起きる時間を固定し、起きたら強い光をあびることです。強い光をあびると、覚醒ホルモンが分泌されると同時に、14~16時間後に睡眠ホルモン(メラトニン)が分泌されるようになります。

強い光と言いましたが、実はブルーライトです。PCやスマートフォンからも発せられているので、布団からなかなか出られないいときは、画面を明るくしたスマートフォンをチェックするのも、覚醒に一役買います。逆に言えば、寝る時に見えていると目が覚めてしまうので、使い所は注意しましょう。

いびきがひどい時は対策を

家族からいびきがひどいと言われた・朝起きた時に疲れている・頭痛がするといった症状がある時は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。酸素が足りないために、疲労感や頭痛が起こるとされています。

軽いいびきの場合は、仰向けではなく横を向いて寝ることである程度防げるようですが、ひどい場合は病院で診断してもらうのが良いでしょう。

寝ている時の呼吸を助ける機器があり、それを装着するだけでいびきが改善するのはもちろん、睡眠の質も上がります。肥満体質の方がなりやすいものですが、痩せ型の方でも骨格によっては起こり得るので、気になる症状がある時は病院で相談してくださいね。

寝酒はしない・水分を取りすぎない

解消する方法でも書きましたが、寝酒は睡眠の質を下げます。理由はいろいろと言われていますが、寝ている間に良いが覚めるのと合わせて脳が覚醒してしまう・アルコールを分解する過程で尿意をもよおして目が覚めてしまう、といったことがあります。

水分も同様で、寝る前に水を飲みすぎるとお手洗いが近くなることから、取りすぎは良くないと言われています。ですが、人は寝ている間にも汗をかくので、コップ1杯程度は飲んでいて大丈夫なようです。また、水を飲むことで内蔵が少し冷えて、深部体温が下がるので寝付きやすくなるとも言われています。

体を冷やさない

近年は、体を冷やさないためのグッズがいろいろと出ています。エアコンを使うと乾燥や電気代が気になる方は、充電式の湯たんぽやネックウォーマー・レッグウォーマーなどを使ってみましょう。

女性はもちろんですが、男性にも冷え性の方が増えてきているという話も聞きますので、男女を問わず対策するのがよいでしょう。

冷えるとそれだけ体に負担がかかり、睡眠中の疲労回復が追いつきません。寝ている間に日中の疲れを癒すためにも、冷えには要注意です。

良い睡眠で認知症リスクをさげる

睡眠時間や睡眠の質は、認知症に影響を与えていることが分かってきました。若いから多少寝なくても平気と思っている方がいれば、少し考えを改めて、将来のためにも睡眠をとりましょう。

年をとると、寝ることにも体力が必要になって、睡眠時間が短くなります。だからこそ、質も重視していきたいところです。量も質も加味した睡眠をとりましょう。